アバター
 脳の研究は驚くほど進んでいて、脳のどの部分に電気信号を与えるとどんな感覚が起こるのか、結構わかるようになっているようだ。その技術はすでに医療の現場に応用されていて、「両足を失った人が頭で考えるだけで義足を自由自在に動かす」といったことが現実になりつつある。素晴らしいことだと思う。
 でもその技術が一番利用されるのは、たぶんゲームだろう。脳に電極をつなぐだけで、中世の騎士になったり、宇宙を駆け巡ったり、かわいいJKが次々と言い寄ってきたり…。自分が本当にその世界にいるとしか思えないリアルな体験が自宅にいながらできるのだ。バーチャルセックスをするゲームも出てくるだろう。絶世の美女とセックスし放題なんてゲームが登場したら、ただでさえ女に興味の薄い草食系男子は、ますます女性に興味を示さなくなりそうだ。
 今でもゲームが面白過ぎて「ネトゲ廃人」が続出しているというのに、これ以上ゲームのリアリティが上がったら、ゲームの世界にのめり込んで現実放棄する人が続出するんじゃないか。映画「アバター」の主人公は、現実世界では下半身不随の車イス生活。でもアバターになると、超人的な肉体で野山を駆け回る。次第にどちらが「リアル」でどちらが「バーチャル」か分からなくなってくる。日本中の若者がアバターの主人公みたくなっても全然不思議じゃない。でも親が大金持ちでもないかぎり、最後に「リアル」が破綻するのは必至だ。
 ソーシャルメディアを使えば使うほど幸福感が少なくなる、という研究もあるらしい。インターネットは確かに超便利だし、その進歩は今後も加速していくだろう。でも、それが本当に人間を幸せにしているんだろうか?

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※家庭用VHSビデオカセッター初号機「HR-3300」。当時の価格は25万6000円。

 NHKの『プロジェクトX』が最高に好きだった。ラスト近く、中島みゆきの「ヘッドライト・テールライト」が流れ、田口トモロウのナレーションがかぶってくる頃には、たいてい泣いていた。
 『プロジェクトX』を観て一番思うことは、どんな凄いプロジェクトもたった一人の想いが創り上げたということ。もちろん遂行するのはチームだ。でもそのプロジェクトを思い立ち、チームを作り、叱咤激励して成功まで導くのは、大抵の場合たった一人の人間なのだ。
 中でも一番凄いと思ったのが、「窓際族が世界規格を作った」で紹介された、VHSを作った髙野鎮雄氏だ。髙野氏は日本ビクターのお荷物事業部「ビデオ事業部」の部長だった。ある日彼は家庭用ビデオを開発しようと思い立ち、部内から3人の技術者を集めて開発を始めた。会社に内緒で。ほぼ同時期、ソニーは社運を賭けて100人体制で家庭用ビデオ・ベータマックスを開発した。かたやビクターはたった3人、それも会社に隠れてだ。「本当にできると信じていたんだろうか?」と不思議に思えるぐらい無謀なチャレンジだった。
 もちろん「たまたま髙野氏は成功したから『プロジェクトX』に取り上げられただけで、失敗した家庭用ビデオ開発プロジェクトはたくさんあったはず。無謀なチャレンジを賛美するのは間違いだ」という意見もあるだろう。それはたぶん正しい。
 でも彼ほどの成功じゃなくても、巷に無数に立ちあがるプロジェクトを成功に導くのは、たった一人の人間の想いなんだと思う。この番組を観てそう思う。

young-steve-jobs
 僕は先日他界したアップルの創業者で元CEO、スティーブ・ジョブズを崇拝している。もしジョブス教というものがあったら、間違いなく熱心な信者だと自負している。
 ジョブズの偉大さは、世の中に存在しなかった商品を4つも生み出したことだ(普通、全く新しい商品を1つ生み出すだけでも凄いのに、ジョブズは4つだ。天才としかいいようがない)。Macintosh、Pixar(CG映画制作会社)、iPod、iPhone。もしビル・ゲイツがいなくても、Windowsに代わる別のOSがPCを動かしていたはず。でもジョブズがいなかったら、パーソナルコンピュータも、フルCGの映画も、携帯型mp3プレイヤーも、スマートフォンも、その登場はもう少し遅れていただろう。
 ジョブズは製品だけでなく言葉でも多くの人々に影響を与えた。ペプシコーラーの副社長・スカリーに言った「あなたは一生砂糖水を売り続けるつもりか?」はあまりにも有名だし、Think differentの広告キャンペーンは超カッコ良かった。製品発表会でのパフォーマンスも絶賛されている。でも僕が一番好きなのは、スタンフォード大学の卒業式でのスピーチだ。
「最も大事なのは、自分の直感に従う勇気を持つことです。直感とは、あなたの本当に求めることをわかっているものです」。そして彼は、こんな言葉でスピーチを締めくくった。「Stay Hungry. Stay Foolish.」。やっぱジョブズはカッコいい。

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